・我が子に会えた日の記録、後編
( (お産の記録、後編です.
痛そうな表現もあります.
苦手な方は、読むのをお控えください.) )
・
死に物狂いで再び分娩台にのぼり、
内診したら、急にあわただしい.
子宮口がいきなり8センチ.
ほれみろ、痛すぎるんじゃ、
これで生まれなかったら、人間誰が産めるんじゃ、ぼけ
と、言いたかったが、声出せず.
さっきまで
まだまだよ〜がんばって〜、なんて笑顔で言っていた助産師さんも、
もういきんでいいよ、と真顔で言う.
動物は、やっぱり本能があるんだね、
いきみ方なんて知らなかったけど、
その瞬間、
よしきた、まかせろ!という強い気持ちだけに支配された.
不思議だね、あんなに怖くて不安だったのに、
陣痛が本格化すると、
恐怖心は消え、
この痛みに耐えるのも、産むのも、
もう じぶんしかいないんだ、
逃げることはできない、
やるしかない、
という 覚悟がうまれる.
さ、次の波が来たら、わたし乗りますよ.
人生最大の力だしますよ!
・
きた.
冷静にビデオを思い出す.
2回深呼吸.
3回目で息止めて、
頭の血管切れそうなくらい力を入れる.
あごはひいて、
天井に向かっていきんで、と言われその通りにする.
上手よ〜と褒められ、
これでいいんだ、がんばろう、
と 思えた、1度目のいきみ.
2度目の波がきた.
同じようにがんばる.
手は抜かない.
その瞬間、大きな風船がお腹の中でわれるかんじがして、
助産師さんが、ハイ!何時何分自然破水!と言った.
あ、いまの破水だったんだあ.
そしてあわただしく、先生が呼ばれてやって来た.
助産師さんが、
はい、つぎでうむよ!
と言った.
オーケー、やってやる.
3度目の波.
おなじようにがんばろうとするも、
なぜか途中で陣痛の波が途絶えてしまい、
うそでしょ? 待って、行かないで陣痛〜泣
仕方がないので、いきむのやめる.
助産師さんが、あれ?どうしたの?
途中で終わっちゃって・・
とこたえる.
じゃ、次ね、次よ!
そして、4度目の波.
やるしかない、
やるしかない、
で、がんばる.
先生が、お産をすすめるために、ちょっと切開しますね、と言ったと同時に、
ジョギン!ジョキン!と、
よく切れるハサミの音が響き渡った!!
痛みはまったく感じなかったが、
音が響きすぎてびびる.
(後ろにいたわいさんは、先生の手に飛び散る鮮血を見て、ひぃぃぃ〜とおもったらしい)
呼吸止められるかぎりの、
ふんぬぅ〜〜!!!
すると、
はい、もう力抜いて〜と言われ、
短く呼吸するように指示される、
あ、これもビデオで見たやつだ、
オーケー知ってるよ、知ってる、
あー終わったのね、
と おもった瞬間、
あ、やっぱりまだ、もう一回力入れて!
え、うそでしょ、なにそれ!
・・とおもったら、
おめでとうございます〜
生まれました〜
と言われた.
10時過ぎの出来事.
え、出たの?ほんとに?
噂に聞いてた、爽快感はなかったので、
ちょっとびっくりした.
あー、終わったんだ、
と、達成感はなく、呆然としてしまった.
赤ちゃんは、
泣き叫ぶでもなく、ふえーん、と穏やかに泣いていた.
呼吸を意識して、よかった、とおもった.
あまり苦しまずに生まれてくれたのかな、と、なんとなくおもえた.
・
赤ちゃんはほとんど見えないところで、
体重や身長をはかられて、
一瞬見えた色は ねずみいろ?で、
うわ〜 色やばーい、とおもった.
高熱で、何らかの感染症を疑われていたので、
ほら、赤ちゃんよ、って見せてもらったのは、ほんの一瞬.
ああよかった、健康そうだ、
とおもえただけで、
顔とかぜんぜんみる余裕なかった.
そのまま、保育器に連れて行かれてしまった.
でも、まだ母性が芽生えていなかったので、
さほど気にならなかった.
母になった実感もなかった.
ただ、やっと陣痛から解放された安心感があった.
胎盤もすぐに出て、
先生に、胎盤みせてください!と言うと、
処理しようとしていたところを戻して見せてくれた、
のに、なぜだかまったく記憶にない.
わいさんは、でっかいレバーだった、と言っていた.
・
わいさんが、一時的に外に出されて、
切開した傷を縫う処置をされた.
やっと痛みから解放されたと思ったのに大間違い.
それまで、まったく、声をあげずに耐えたわたしも、
このときは、痛いです〜と泣き言を言った.
これがまた、すごく長くて、
なんども何度も、まだですか?あとどのくらいですか?
と 聞いてしまった.
・
処置が終わると、わいさんが入室し、
2時間くらい休んでるように言われた.
ほんとうに、これがさいごの ふたりきりになるだろうな、とおもった.
不思議なことに、
熱は下がっていた.
分娩台は固くて、横になってるのがつらい.
でも動けなかったので、そのまま.
わいさんと、
いかにわたしの いきみ方が上手で冷静で、
ビデオさながらだったか など話す.
何度も何度も、
ありがとう、よくがんばってくれた、
と、お礼を言われて、よい気分.
・
2時間後、
フラフラでトイレに行って、戻り、
まだ動けなさそうだったので、
もう1時間休むことになる.
わたしは、ひとりになるのが不安だったから、
わいさんには悪いけど、1時間でも延長できてよかった.
夜中1時くらいにわいさん帰る.
わたしは、車椅子に乗せられ、病室へ.
途中、ほんのすこしだけ、
保育器に入ってる我が子とご対面.
うわ〜
本物の赤ちゃんだあ.
でも、なぜか、このときどんな顔だったか、
寝てたのか、目あけてたのか、
やっぱり記憶にない.
興奮して、ちゃんと見る余裕なかったのかな.
明日からのスケジュールを説明されたけど、
疲れてまったく覚えられなかった.
・
感動できていない自分に不安を覚えながらも、
わいさんに送ってもらった、
生まれたての赤ちゃんの写真を何度も何度も何度も何度も見て、
その現実を受け止めるのに必死で、
頭が混乱して、
そして朝を迎えた.
何度も夢でみたことのある、
赤ちゃんのいる現実が、
ほんとうに、ほんとうに、
はじまったんだ、
とおもった.
おなじせかいに、わたしと、わいさんと、赤ちゃん、
同じ世界にいっしょにいるんだ、
すごいことだ!
・
それでもまだ、実感はわかなくて、
興奮が冷めるのと反対に、
忘れていた痛みが、どんどん どんどん
大きくなるのでした.